この記事では、中央銀行の役割について解説していきます。
が、そのまえに、マクロ経済を根本から考えるうえで、いま一度、お金とモノの価値について、深く見ていきましょう。
目次
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ここで言うモノとは「お金以外のモノ」。
私たちが普段生活していくうえで必要な食べ物、家賃、光熱水道などの衣食住インフラ。
さらにはお酒にタバコ、ゲーム課金、車など、あらゆる娯楽サービス。
また当サイトで紹介してるような株や債券といった金融商品も、モノと考えることができます。
いわゆるお金によって消費される対象。
それがモノですね。
この消費に必要な「お金」と、消費される「モノ」は、つねに綱引のように、密接な駆け引きの関係にあると言えます。
株価があがっていくリスクオンのときには、投資家はお金をモノ(株・不動産など)に変え、人々はお金を使いまくる流れになります。
逆に株価がさがっていくリスクオフのときには、投資家はモノをお金に戻し、人々はお金をまったく使わない流れになります。
しかしこれらのリスクオン・リスクオフの流れは、過剰になると社会に混乱をもたらします。
リスクオンによって、どんどんモノの価値があがってお金の価値がさがる。
これをインフレーション(インフレ)と言います。
逆にリスクオフになると、どんどんお金の価値があがってモノの価値がさがる。
これをデフレーション(デフレ)と言います。
インフレ → リスクオンによって「通貨安・物価高」になる状態(国内株価は上昇トレンド)
デフレ → リスクオフによって「通貨高・物価安」になる状態(国内株価は下降トレンド)
インフレやデフレは過熱すると、それぞれハイパーインフレ、デフレスパイラルとよばれ、どちらも経済活動が正常に機能しなくなります。
リスクオン・インフレをそのまま放っておく → お金が安くなりすぎて、通貨として機能しなくなり、経済機能が停止(ハイパーインフレ)
リスクオフ・デフレをそのまま放っておく → お金が高くなりすぎて、お金がなくてなにも買えない人が多くなり、経済機能が停止(デフレスパイラル)
言ってみれば、ハイパーインフレはモノだけがモテる状態で、誰もお金を持とうとしない状態。
逆にデフレスパイラルはお金だけがモテる状態で、誰もモノを持とうとしない状態というわけです。
これでは綱引が成立しません。
綱引が両極端になると、お金とモノの交換がおこなわれなくなり、経済活動が破綻します。
このお金とモノの需給バランスを調整するのが、世界各国に設置された「中央銀行」の役割です。
<特に覚えておくべき中央銀行>
日本 → 日本銀行(日銀)
アメリカ → FRB(連邦準備銀行)
ヨーロッパ → ECB(欧州中央銀行)
中央銀行の目的はインフレにもデフレにもなりすぎない、自国の安定した経済活動の継続です。
そのためにデフレの状況では「金融緩和」、インフレの状況では「金融引き締め」という形で、中央銀行はさまざまな金融政策をおこないます。
金融緩和 → 「お金」だけがモテるデフレスパイラル状態を回避するため、お金の価値をさげて、経済活動を活性化させる(ETF買い、利下げなど)
金融引き締め → 「モノ」だけがモテるハイパーインフレ状態を回避するため、お金の価値をあげて、経済活動を沈静化させる(ETF売り、利上げなど)
金融緩和の一例が、お金を刷って増やして、そのお金を市場に出回らすことですね。
お金はあればあるほどいい。
単純にもっとお金を刷って増やせば、みんなお金持ちになれてハッピーに。
そんなふうに考える人、多いんじゃないのでしょうか。
かつて金融に無知な私もそうでした(笑)
しかし実際はお金がふえるほど、相対的にモノの価値もあがり、富裕層はお金を株や不動産などに変えて、金融資産という形でモノを所有。
かたやお金はかさばって無価値化するだけですので、結局のところ、貧富の差は変わらないのですね。
こうしてハイパーインフレやデフレスパイラルという概念にふれていくと、「誰もが平等にお金持ちな世界」というのがいかに幻想かが、よくわかります。
「お金持ち」という発想自体、貧乏人がいるからこそ成り立つ相対的な概念だということは、覚えておいた方がいいでしょう。
お金を刷って増やすなどの金融緩和は、あくまでデフレが過熱して経済活動が沈静化した状態を、解決するためのもの。
それで別にみんながお金持ち(資産持ち)になれる、ということではないのです。
<中央銀行の役目>
過剰なデフレ状態では市場に出回ってるお金を増やす → お金が多くなることで、相対的にお金の価値がさがり、モノの価値があがる(売買が盛んになり金融緩和に)
過剰なインフレ状態では市場に出回ってるお金を減らす → お金が少なくなることで、相対的にお金の価値があがり、モノの価値がさがる(売買が沈静化し金融引き締めに)
ちなみに日本やヨーロッパのような先進国ではデフレが発生しやすく、ベトナムやブラジルのような発展途上国ではインフレが発生しやすいです。
特に日本のデフレ体質は、先進国でも異質。
国民が貯蓄好きで株投資をあまりしないこともあり、為替レート上、円高に傾きやすいですから、輸出業がなかなか賑わいません。
そのため日本の中央銀行である日銀は、主に「買いオペ」という金融緩和策によって、刷ったお金を市場にばらまき、リフレ(意図的なインフレ)をもくろみます。
買いオペ → 株、不動産、債券などの金融商品を中央銀行が直接買い、そのときの売買代金のお金が日銀から市場に放出される(金融緩和)
売りオペ → 株、不動産、債券などの金融商品を中央銀行が直接売り、そのときの売買代金のお金が市場から日銀に吸収される(金融引き締め)
具体的にはETF(上場投資信託)を経由して、日銀は株を売買しています。
● 投資信託・ETFとは?(参考記事・ETFのわかりやすい解説) |
「日銀のETF買い」とかよく言われますが、これは税金を使って、日銀が日本株を買い支えている、ということですね。
基本的に日銀が株を売らないかぎり、日経平均株価の月足長期チャートは右肩上がりを形成します。
この日銀のETF買いオペこそ、株をやっている人が、株をやっていない人たちと比べて富の形成がはやい理由のひとつです。
前述のように、単純にお金を刷って国民全員にばらまいても、お金持ちはうまれません。
お金持ちは貧乏人と区別されるからこそ、お金持ちたりえます。
なので日本政府としても、お金の量を増やす金融緩和を「株のETF買い」という形でおこなうことで、株をやっている人たちだけお金持ちになるよう、調整しています。
なお中央銀行がちゃんと機能していれば、株式市場もソフトランディングとよばれる落ち着いた相場になり、長期投資に適した環境が整います。
しかし経済が中央銀行でも制御できない状態になると、たとえば過去の2008年リーマンショックのように、急激な大暴落をともなったハードランディング相場になります。
ソフトランディング相場 → 値動きが落ち着いた相場で、長期投資に向く
ハードランディング相場 → 値動きが激しい相場で、短期トレードに向く
長くなりましたが、経済の根幹である「お金とモノの駆け引き」と中央銀行の役割については、こんな感じです。
そして肝心の株価への影響ですが、簡単にまとめると以下のとおりになります。
<中央銀行の市場介入による株価の変動・まとめ>
金融緩和で国全体のお金の量をふやしてインフレ・リスクオン促進 → 株価はあがる
金融引き締めで国全体のお金の量をへらしてデフレ・リスクオフ促進 → 株価はさがる
ETF買いオペなどの金融緩和では株価があがり、ETF売りオペなどの金融引き締めでは株価がさがる。
このことを覚えておきましょう。
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