株主優待を無料で入手する方法として、「優待クロス」という有名な手法があります。
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前ページ「権利付き最終日とは?」で解説したとおり、配当や優待などのインカムゲインを半年分(1年分)もらう権利を得るには、最短で二日間さえ現物株を持っていればいい仕組みになっています。
具体的には、現物株を権利付き最終日にエントリー、その翌営業日の権利落ち日にエグジットという形。
このような仕組みから、短期で優待をとってやろうと考える人は多いです。
そのため、権利落ち日には株価が落ちることもしばしば。
たとえばマクドナルド(2702)の場合、優待の権利確定日は年2回。
100株につき半年で、およそ6000円程度の価値をもつ株主優待チケットが手に入ります。
権利付き最終日に100株現物でエントリーして、翌営業日の権利落ち日に株価がマイナス100円になってエグジットした場合、キャピタルロスはマイナス1万円。
優待を含めて考えると、4000円ぶん損になりますね。
優待の得以上に、キャピタルロスで損がふくれてしまう。
これを防ぐ手法として、優待クロスがあります。
現物株と一緒に同等数の空売り玉をいれて両建てしておくことで、優待クロスは達成できます。
現物株 → 値上がりすると含み益、値下がりすると含み損
空売り玉 → 値下がりすると含み益、値上がりすると含み損
両建て → 現物株ポジと空売り玉ポジを同一数いれる(損益が固定される)
両建ては、株価が値上がろうと値下がろうと損益はゼロで固定されます。
そのため権利落ち日の値下がりリスクを回避する目的で、優待取りではよく使われます。
株のインカムゲインには、配当金と優待があります。
そのうち配当金については、権利付き最終日に空売りポジを持ち越すと配当金相当額を支払う必要があり、現物株ポジでもらえる配当金とあわせて、プラマイゼロになります。
しかし優待では、そういった心配はありません。
こういった背景から、優待クロスという習慣が成立しています。
<権利付き最終日の持ち越し>
配当 → 現物株ポジでもらえ、空売りポジで支払って相殺
優待 → 現物株ポジでもらえ、空売りポジで支払い不要(優待クロスの成立)
ちなみに、信用取引の買いポジでは、優待がもらえません。
優待をもらうなら、しっかり現物株ポジで権利付き最終日をまたぐ必要があります。
すでに信用取引の買いポジを持っている人は、必要な買付余力のお金を入金したうえで、現引きする必要がありますね。
信用買いポジ → 配当はもらえるが優待はもらえない
現物株ポジ → 配当も優待ももらえる
現引き → 信用買いポジを現物ポジに変える手続き(手数料無料)
なお、基本的にみんな同じことを考えますので、優待の権利付き確定日には現物買いと同じくらいに、制度信用取引の空売りが大量発生。
制度信用取引では、空売りが大量発生すると「逆日歩」とよばれる手数料が発生します。
たとえばマクドナルド(2702)の場合、2017年6月27日の権利付き最終日には、逆日歩が100株につきおよそ2万円発生しました。
6000円ぶんの株主優待がもらえることを考えると、逆日歩で1万4000円の損。
このように、手に入る優待以上に逆日歩で損するケースがあるわけです。
約定日と受渡日の違いについては、別記事「金利手数料・逆日歩の具体的なかかりかた」参照。
この逆日歩を回避するため、優待クロスの空売りには制度信用取引ではなく、一般信用取引を使うのが普通です。
制度信用取引の空売り → 貸株料は低いが、逆日歩が発生する可能性がある
一般信用取引の空売り → 貸株料は高いが、逆日歩が絶対に発生しない
貸株料というのは売方金利のことで、信用取引の売りポジを所有するかぎり、無条件で毎日かかってくる手数料のこと。
通常制度信用取引の空売りであれば年利1%に対して、一般信用取引の空売りは年利4%の手数料になります。
たとえば100万円ぶん空売りすると、制度信用取引なら年間1万円、一般信用取引なら年間4万円の手数料がかかる。
1日に換算すると、それぞれ27円、109円の手数料。
およそ4倍の差になりますが、逆日歩リスクにくらべたらマシということで、優待クロスでは数日間の割高な貸株料を、肉を切らせる思いではらうわけです。
なお一般信用取引の空売りに使われる貸株は、人気な優待銘柄ほどすぐに品切れとなります。
そのため確実に欲しい優待は、権利付き最終日の10日前には、現物株と空売りの両方を仕込んでおくのも基本です。
ただでさえ制度信用取引で空売りできる銘柄は少数。
一般信用取引で空売りできる銘柄はさらに少数で、権利付き最終日が近づくと人気化。
確実に確保するには割高な貸株料を、数日間にわたり払う必要がある。
優待クロスをやるのであれば、これらのリスクを承知のうえでやる必要がありますね。
いろんな思惑が絡みあいますので、結果的に権利落ち日は特に値下がりせず、空売りなんてせずとも現物株だけ持ち越してたほうが楽でお得だった。
そんな展開も山ほどあります。
優待クロスをやるなら、こういった一面も理解しておかなければいけません。
それでは、具体的に優待クロスの様子を見ていきましょう。
(クリックで拡大・現物買と信用新規売)
SBI証券・スマホの株アプリでのマクドナルド(2702)・2019年時点の例。
権利付き最終日が近づいた10日前あたりに、9時~15時以外の非営業時間で、現物買と信用新規売(空売り)、それぞれ選択。
非営業時間に発注するのは、翌営業日の寄り付き9時に同時約定させるため。
もしザラ場の営業時間に発注してしまうと、それぞれの約定価格が別々になり、両建ての意味がなくなります。
(クリックで拡大・現物買)
現物買では「特定・100株・成行・当日中」を選んで発注。
(クリックで拡大・信用新規売=空売りイン)
信用新規売では「一般(15日)・100株・成行・当日中」を選んで発注。
一般信用取引の売りエントリーのポジ期限は、15日前後が基本です。(無期限銘柄は極少)
現物買、信用売り、ともに成行で注文しておき、寄り付きで同価格約定させます。
(クリックで拡大・現物買のかわりに信用新規買も可)
ちなみに成行で現物株を買う場合、現在株価より多めに現金が必要です。(具体的には値幅制限の上限の現金)
もしそこまで余力がない場合は、まずは信用取引の買いで発注し、そのあと現引き(げんびき)して現物株にする、という手段もアリですね。
(クリックで拡大・現引と現渡)
権利付き最終日をすぎて権利落ち日になったあとは、現渡し(げんわたし)を使って、現物株ポジと信用売りポジを相殺させればOK。
現引(げんびき) → 信用買いポジを現物株ポジに変える
現渡(げんわたし) → 現物株ポジと信用売りポジを相殺決済する
これで優待クロスによる優待取りの作業は終わりです。
<優待クロス一連の作業まとめ>
権利付き最終日の10日前あたりから、現物株ポジと一般信用売りポジを、寄り付き前に成行で両建てエントリー
年利4%の貸株料を権利落ち日まで払いつづける
権利落ち日になったら現渡で決済
参考までに、マクドナルドの株価が5000円、100株で手に入る優待の価値が6000円として。
これで優待クロスした場合、10日間の貸株料は1000円、売買手数料が買いポジ・売りポジあわせて1000円、配当金の税金が300円、あわせてトータル2300円の手数料というのが目安です。
6000円の優待に対して2300円の費用ということで、一応得をしている状態ではあります。
まあご覧になればわかるとおり、非常に複雑です(笑)
本来2日ですむはずの優待取りも、一般信用取引の売りポジをすばやく確保するために10日前からエントリーしていたり、余計な手数料がかかったりなど。
もはや証券会社が、手数料をぼったくるためにあるシステムとも言えます。
個人投資家にとってあらゆる投資活動は短期でやるほど煩雑になり、手数料的にも不利になるということが、今回の優待クロスの一件からもよくわかりますね。
キャピタル目的であれインカム目的であれ、現物株を買って単純に長期放置していたほうが、余計な手数料もかからずにすみ、私たち個人投資家としては有利になります。
優待だけでなく、配当金も手に入りますしね。
なるべく忙しいお金を、普段から作らないということ。
お金は短期で回転させようと慌てるほど、どんどんへっていくことになります。
「お金持ちがさらにお金持ちになり、貧乏人がさらに貧乏人になる」という現象は、お金に対して余裕をもって投資にいどめないがために起きるものということを、忘れてはいけませんね。
信用取引を利用するときの金利・貸株料や逆日歩といった手数料も、1日持ち越しただけで数日分の手数料を一気に払わないといけないときがあるなど、じつに一癖ある仕組みです。
器用な人以外は、優待クロスという短期の優待取りも、あまりすべきものではないというのが、私の持論ですね。
金利や逆日歩のかかりかたについては、次ページ記事にて。
■ 次ページ 金利手数料・逆日歩の具体的なかかりかた
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